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シンポジウム抄録 3

「矯正医療の将来を考える」〜医療の質を高めるシステムを求めて〜

日吉歯科診療所
熊谷 崇

 矯正治療にしろ、補綴治療にしろ、専門的な歯科治療を行う際に、口腔内の状態が整っていないところに行っても、長期的には意味がないと常々考えています。土壌がしっかりしていなければ上に立派な建造物を建てても、崩壊してしまうのが目に見えているように、最初にすべき口腔の基礎づくりは必須事項のはずです。しかし、この段階が日本の歯科医療には欠けているのではないでしょうか。

 北欧諸国では成人になるまでの健全な歯列育成は、国の制度が保障してくれますが、日本ではそういう制度がないために、基礎づくりを無視して複雑化した口腔内の中で、歯科医師の技量が問われるような風潮があります。しかし、20歳までのこの口腔の基礎づくりは、制度の有無に関わらずどのような歯科医療を行う上でも、必要なはずです。

 最初の乳歯が萌出してから、口腔内はバイオフィルムの温床となります。バイオフィルム感染症であるう蝕と歯周病は、関与する他のリスクファクターをコントロールしながら、継続的にバイオフィルムを除去して発症を抑えることができます。つまりプロフェッショナルケアとホームケアによって管理して、土壌の整った口腔内を育てていくのです。乳歯萌出からこの予防プログラムにのっとっていけば、20歳でカリエスフリー、歯周病フリーの歯列を育てることは90%可能になると考えています。さらに、矯正医は、特に子どもの長期治療を行う機会の多い専門医なので、不正咬合フリーの歯列を育てて行く過程で、20歳までのカリエスフリー、歯周病フリーの歯列を育成することも合わせて積極的に関わっていただける、口腔の基礎を作るための重要なポジションにあると言えるでしょう。

 土壌がしっかりした後の専門的な質の高い歯科医療サービスは、確実性を増すであろうことは予想に難くありません。それは必ず人々の歯科や口腔に対する意識を変え、歯科界を活気づかせることになるのではないでしょうか。

 

【ご略歴】

1968年 日本大学歯学部卒業
1971年 横浜市港北区開業
1980年 山形県酒田市に移転開業(日吉歯科診療所)

 

【主な活動】

1983年〜 A.A.P.(米国歯周病学会)会員
1989〜90年 日本歯科医師会「歯学研修セミナー」講師
1995年〜

AFFILIATED MEMBER OF THE SCIENTIFIC BOARD  I.H.C.F.
(インターナショナル ヘルスケア ファウンデーション)

1998年〜 日本ヘルスケア歯科研究会
1999年 9月 スウェーデン マルメ大学歯学部 名誉博士号

 

【非常勤講師】

新潟大学歯学部、東北大学歯学部、九州歯科大学歯学部、九州大学歯学部、鶴見大学歯学部

 

【主な著書】

    1. 口腔内写真の撮り方 (第2版)(共著) 医歯薬出版
    2. 歯科・本音の治療がわかる本(共著) 法研
    3. わたしの歯の健康ノート  医歯薬出版
    4. 歯周病とう蝕の健康管理ファイル 医歯薬出版
    5. クリニカル カリオロジー(共著) 医歯薬出版
    6. 健康志向の診療室づくり(共著) 永末書店
    7. 20歳からの歯周病対策 講談社
    8. ウ蝕治療・リボリューション(デンタルダイヤモンド増刊号)(共著)
      デンタルダイヤモンド社
    9. カリエスコントロール(共著) 医歯薬出版
    10. 実践カリオロジー(デンタルハイジーン別冊)(共著) 医歯薬出版
    11. 実践ペリオドントロジー(デンタルハイジーン別冊)(共著) 医歯薬出版
    12. 徹底図解 むし歯・歯周病(共著) 法研
    13. EBMをめざした歯科医療(共著) 永末書店
    14. ミュータンスレンサ球菌の臨床生物学(共著) クインテッセンス
    15. EVIDENCE BASED PREVENTIVE DENTISTRY はじめに予防あり
      デンタルダイヤモンド社
    16. 思考する歯科医・行動する歯科医(共著) 永末書店

 

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